ダルモア12年のテイスティング&レヴュー・樽使いのこだわり貫かれた渋く甘い名作

北ハイランドはアルネス町郊外にあるダルモア蒸溜所は、1839年に、地元のマセソン家によって創業された。
1867年に同じく地元のマッケンジー3兄弟に買収され、以来同家が運営。19世紀後半からはブレンデッドウイスキー ・ホワイトマッカイの原酒となり、発展を遂げる。
しかし第一次世界大戦中は、熟成庫が連合軍によりドイツのUボート爆撃用の機雷を作るために利用されたり、爆発でひどいダメージを受け一時閉鎖を余儀なくされたりと数奇な運命を辿る。
その後、1960年にマッケンジー社とホワイトマッカイ社は合併し、名実ともに両者は一体となり、新たな展開を迎える。その後オーナーは次々と変わっていくが、最近まではマッケンジー家の代表が同社の役員を務めていたらしい。2014年以降はフィリピンのブランデーメーカーエンペラドール社の所有。近年は東南アジア市場に特化したマーケティングを行い、ここ10年でその販売量は6倍に跳ね上がったのだとか。

ダルモアはユニークなポットスチルでも有名。ランタン型のヘッド(途中がくびれた形)に、上部は弧を描かず平らになったT字の形、再留釜にはウォータージャケットという冷却装置がついており、ヘヴィで複雑な香味成分を含む蒸気を釜に戻す還流を多く起こさせる。これが豊かな風味を生み出す重要な要因であるとのこと。

使用される樽の多彩さもまた特筆すべき点である。主流であるバーボン樽やシェリー樽だけでなく、以前からマデイラ、マルサラ、ポート、などの酒精強化ワイン樽を積極的に使用、さらにシェリー樽についてはシェリー酒の名門、ゴンザレスビアス社から提供を受けている。

今回ご紹介する入門編の12年にも、バーボン樽で熟成された原酒に加えて、ゴンザレス・ビアス社のマツサレム・オロロソシェリー樽で熟成された原酒が使われている。マツサレム・オロロソは熟成30年超のシェリーで、甘口シェリーの最高峰と名高い。

シェリー樽熟成を謳うウイスキーは多いが、大抵は新樽にシェリー酒を詰めて1年以上のシーズニングをするというもの、だがダルモアが使うのは正真正銘、30年超の長期熟成に使われた希少な樽なのである。

さて、その香りとお味はいかがなものだろうか・・・

 

 

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アンティーク家具に塗ったオレンジマーマレード
ハチミツを溶かした紅茶
コンソメ風味の木香とバニラ

89点

樽由来のビターでスパイシーな木香がかなり豊かなウイスキーだ。
高級家具の置いてある洋館を思わせるような、または紅茶葉や焙煎したコーヒー豆のような香ばしくビターな旨味、さらにそこにオレンジマーマレードのような甘味と苦味、コンソメのような風味がじわっと。
加水するとこのオレンジマーマーレードがよりわかりやすく出てきて、よりスイートで柔らかい印象に変わる。
華やかというわけでもなく、強烈な濃さもないが、抑制のきいた香ばしいビターの奥にあざとくない優しい滋味がじわり滲み出る、渋く甘い素敵なウイスキー
ダルモアは「シガーモルト」という葉巻と合わせるためのバージョンも出しているが、この12年にもまさに葉巻に合いそうな独特のビターがある。

蘭子

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