アイリッシュウイスキーについて
そもそもウイスキーとはゲール語の「ウシュクベーハー(命の水)」から誕生した言葉である。最初それはキリスト教の修道院で薬酒・不老長寿の妙薬として用いられていた。穀物原料の醸造酒を蒸留してスピリッツ(これがウシュクベーハーとなる)を得るという技術が発達したのも修道院においてである。
キリスト教の修道院とともにあった蒸留文化がアイルランドに根付いて行ったとされるのは、セント・パトリックがアイルランドにキリスト教を布教した5世紀以降。それが後にキリスト教文化が輸入されるとともにスコットランドにも広まって行った。
こうして考えると、ウイスキーの起源はアイルランドにある、とするのが自然かもしれない。しかし現在行われている「樽熟成」がで風味に深みを与えるという製法が発明されたのは密造酒が盛んに作られていた18世期頃のスコットランドにおいてである(イングランドの理不尽な課税から逃れるために、樽に貯蔵して隠していたものを飲んでみたら味が良くなっていたのがきっかけらしい笑)ということを踏まえると、やはり奇遇にも現在につながる嗜好品としての「ウイスキー」を発明したのはスコットランドでは?とも思うが・・・
さて、
今からおよそ200年前、世界のウイスキー市場の60%をアイリッシュウイスキーが占めていた時代があった(その頃のアイルランドの蒸溜所の数は1200から1500とも言われていた。ありすぎでは・・・)
しかし、20世紀初頭のアイルランド独立戦争、アメリカの禁酒法、第一次、第2次世界大戦の動乱の中、どんどん衰退して行ってしまい
1980年代には蒸溜所の数は何とたった2つ(ブッシュミルズ蒸溜所とミドルトン蒸溜所)のみになってしまった(全体の売り上げもスコッチの50分の1程に落ち込んでしまったという)
しかし、1987年にクーリー蒸溜所が設立されて以降は徐々に息を吹き返し、さらに2014年のアイリッシュウイスキーアソシエーション(IWA)の設立とそれに伴う法改正以降、新しく革新的な蒸溜所が次々と誕生し、現在ではおよそ30の蒸溜所が稼働している。
アイリッシュルネッサンスとも言われている昨今、勢いを増しているアイリッシュウイスキーたちの数々を飲まずにおけるはずがないだろう!
アイリッシュ復興の立役者・クーリー蒸溜所ができた頃のアイルランドの蒸溜所マップ↓
最新ではないが2017年の蒸溜所マップ↓
ブッシュミルズ蒸溜所について
さて、今回ご紹介するブッシュミルズ10年は、アイルランド北部のアントリム州に位置するブッシュミルズ蒸溜所にて作られているシングルモルトウイスキーである。
ブッシュミルズ蒸溜所の創業は1609年(アントリム州の領主がイングランド国王から蒸溜特権が与えられたのがこの年であることに由来している)と古く、世界最古の蒸溜所としても有名である(しかし実際に現在の形の蒸溜所が生産をスタートさせたのは1784年のこと)
ブッシュミルズ蒸溜所↓(https://www.discoveringireland.com/vacations/old-bushmills-distillery/より)
現在、この蒸溜所の基本ラインナップは
ブレンデッドのブッシュミルズ、ブッシュミルズブラック
そしてシングルモルトのブッシュミルズ10年、12年、16年、21年
の6種類
シングルモルトで使われるのはアイルランド産100%の大麦
アイリッシュウイスキー特有の伝統ノンピートの麦芽を3回蒸溜 も貫かれている
さて、今回の10年 バーボン樽熟成の原酒とオロロソシェリー樽熟成のものをバッティングさせたものである。
さて、その香りと味はいかがなものであろうか・・・
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レモングラスを添えたラフランス
白い石壁にたらしたミントティー
皮付き青リンゴと薄めた水飴
澄んだ水に溶かした優しい麦のオイル
89点
あまりの柔らかさと軽快さにスルスルと飲めてしまう
ノンピートかつ3回蒸留ならではのクリーンで優しい口当たりは、まるで澄んだ水で入れたアイスミントティーのような柔らかな清涼感
そこにレモンやレモングラスのような酸味、ラフランスのようなフルーティな甘味が淡い水彩のごとくふわりと重ね塗られる
重厚でキャラクターの強いものが多いスコッチとはまた違った、アイリッシュウイスキーならではの優しく軽快な口当たりとフレッシュでフルーティなテイストを知るにはうってつけの、素晴らしい一本ではないかと思う
ブッシュミルズは12年以降のものではさらに様々な樽での後熟のバリエーションも楽しめるが、後熟無しの10年は、シングルモルトとして最も純粋にこの蒸溜所の味を確かめられるもの。既にして非常にレベルが高い
アイリッシュの魅力を知りたい方は、まずはここから
蘭子