ザ・グレンリベット12年(旧・2019年以前)のテイスティング・スコッチシングルモルト永遠のスタンダード

ザ・グレンリベット蒸留所は、スコットランドでももっとも多くの蒸留所が密集するスコッチウィスキー最大メッカとして知られるスペイ川流域のエリア(※1)、通称スペイサイド(全長172キロの川の流域に、なんと50もの蒸留所がある)にある蒸留所のひとつ。

山に囲まれ、豊富な緑や花々と良い水に恵まれたスペイサイドのウィスキーに共通する特徴は、比較的飲みやすい華やかな甘さであると言われている。ピートの香りがきついものはほとんどない。

グレンリベット蒸留所↓

(https://www.theglenlivet.com/en-EN/the-collection#より)

このスペイサイドのウィスキーの看板銘柄として、同じくスペイサイドの銘酒であるグレンフィデックとともに、世界1売れているシングルモルト(※2)ウィスキーのひとつとして古くからその名をはせているのが、今回ご紹介する、「ザ・グレンリベット12年」である。

ひとつ、歴史をかいつまんだうんちくから

スコットランドにて「ウスケボー」という蒸留酒が飲まれていた、という歴史的記述は、既に1172年からあった。しかし「樽熟成」という、現在のウィスキーの個性を決定づける要素は当時まだなかった。

この「樽熟成」という工程が生まれたのは1700年代、ウィスキーの密造時代。

当時、イングランドからの独立戦争に負けたスコットランド人たちは、イングランド政府から文化的迫害を受けることになった。

しかし、自分たちの文化を絶やさずに守るために、スコットランド人の伝統が刻印された酒を隠れて作っていた(見つかったらもちろん捕まってしまう。これは命がけの行為である)。

ウィスキーとは、そう、武力では負けた社会的なマイノリティである当時のスコットランド人たちが、命を賭けて守ろうとした自分たちの文化的なプライドだった(なんかアメリカの黒人たちのブルーズに通じるものを感じます)

まあ、それはおいといて、そのときに酒を隠して貯蔵しておくために用いられたのが「樽」であり、この樽に酒を長期間入れておくことでそのうまみが増すことを知った密造者たちがいたということだ。

当時イングランド政府から迫害を受けていた密造酒造りの隠れ職人たち、つまり彼らこそが「樽熟成」のオリジネイターなのだ。

さて、その密造の代表的な地が、前長172キロメートル程のスペイ川流域(スペイサイド)であり、今回ご紹介するザ・グレンリベット蒸留所を擁する、その支流リベット川の、リベット渓谷だった

そして密造者たちの中でもジョージ・スミスという男の作る酒がひときわ評判を呼んでいた。それが今回紹介する「ザ・グレンリベット」である。

「ザ・グレンリベット」は時のイギリス国王、ジョージ4世に気に入られ、初の政府公認蒸留所への道を歩んだ。同時にそれがウィスキーの密造時代の終焉でもあった。

ちなみに、もともとは定冠詞なしの「グレンリベット」だったが、多くの蒸留所がその名声にあやかろうとグレンリベットを名乗ったり、そのスタイルを模倣しようとしたりした。よって、1884年の裁判にて、ジョージ・スミスのグレンリベットだけが「ザ・グレンリベット」と定冠詞付きで名乗れる権利を勝ち取ったのだ。

スコッチ初の「政府公認蒸留所」として歴史に名を刻んだ蒸留所「ザ・グレンリベット」。まさにすべてのウィスキー史における偉大なる礎と言っても過言ではない。

※1 スコッチの産地は大きく6つに分けられており、地域によりかなり個性が異なる↓スコッチ、6大産地(スペイド、ハイランド、ローランド、キャンベルタウン、複数の諸島をひとまとめにしたアイランズと、アイラ島)

※2 シングルモルトとは、ひとつの蒸留所が製造したウィスキー。たいていは大麦を100%原料とするもの(よってその土地柄がもろに反映された味になる)対してブレンデッドウィスキーは複数の蒸留所のウィスキーを混ぜ合わせてつくる。たいていはグレーン(コーンや小麦などの穀物が原料の)ウィスキーもそこに混ぜられている。

↓スペイ川

さて、その味わいは・・・

春の草原の緑の微かな草いきれ

バナナデザートと青リンゴ

透き通った清流のような涼しさ

つつましやかなバター風味の麦の絨毯がゆっくりとほどけてゆく

89点

リベット渓谷↓

(http://www.goruralscotland.com/glenlivet より)

実になめらかでライトでスムースなる口当たりと優しくフルーティでフローラルな甘味

そしてかすかに漂う森や草原や花々の香り(リベット渓谷の風景そのもののよう)

とても飲みやすく、癖もなく素直でオーガニックなおいしさにあふれた、万人に勧められるウィスキーといえよう。まさしく永遠のスタンダードにふさわしい。

スコッチのシングルモルトを知りたい、という初心者には真っ先に飲んでいただきたい銘柄だ。

3000円前後というコスパの良さも魅力的。また50mlのミニ瓶が500円くらいで売っているので、これが試し飲みにはうってつけである。

ちなみに2019年より新ボトルに切り替わったが、まだ旧ボトルもそれなりに手に入る模様。新旧飲み比べてみるのも一興だろう。

蘭子

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