ラフロイグ10年のテイスティング・No half measure ヘヴィドライピートの極北
  1. ラフロイグ10年の紹介

ラフロイグ、ウィスキーの聖地とも呼ばれる・アイラ島(スコットランド本島の西にある小さな島)

にある蒸留所のひとつである。

一般的なアイラ島のウィスキーの特徴的なイメージは、

原料の麦芽を乾燥させるために燃やすピート(※1)の焦げたような燻製香の強い主張や、微かな潮風の匂い(ヨード香とも言う)。

特にアイラ島最南にあるラフロイグ(※2)蒸留所で作られるウィスキーは、その極北(位置的には最南だが)である。

その味わいはよく「薬品くさい」「正露丸、またはクレゾールのよう」、と称され、なんと禁酒法時代のアメリカでは、「この匂いは酒ではない、薬だ」と言って認めさせ、ほんとうに「医薬品」としての販売を許可されていたほどである。

ピート臭さをあらわす指標であるフェノール値は、アードベッグとほぼ並び50ppm近い(ボウモアで20ppm程度)、全スコッチウィスキーの中でも最大級である。

だが味わいの奥深さは所詮数値では測れない。

ラフロイグの唯一のテイストマジックは

一部を自家製麦する大麦の質(大部分は近くのポートエレンに委託している)

フロアモルティング(※3)や樽熟成の際に麦芽や樽が触れる潮風の影響

専用ピートボグから採れるピートの独特な質

そのピート層を浸透してきた川からひいてくる原料に混ぜる仕込み水の質

発酵麦汁の再蒸留の際のミドルカット(蒸留液の良いところを選んで熟成に回す過程)のタイミング選択(※4)、

そして熟成樽であるバーボン樽の質ももちろん(ホワイトオーク材の1度バーボンの熟成に使用された樽をつかう)

これら数値では測れない様々な要因が混ざり合っている。

ちなみに3本のダチョウの羽をあしらった「平和の盾」とも呼ばれる紋章は、王室御用達の印。チャールズ皇太子愛飲の酒である証拠である。

※1 ゲール語で広い入り江の美しい窪地の意味。大西洋の荒波が押し寄せる海岸に面する、いくつもの川が絡み合うように走っている荒涼とした湿原にある

※2  植物の遺骸の堆積と泥が混ざって炭化したもの(泥炭)。もちろんアイラ島でとれた天然のものを使う。これは原料に加えるアイラ島の川の水(仕込み水)にも混ざっている。多様な植物の他、アイラ島海岸の海藻や貝殻なども混ざり、それらが味わいに大きな影響を及ぼす

※3 2日間水に浸した大麦を床に広げ、4時間毎に攪拌し、麦の発芽によって発生する熱を均等にする伝統的なやり方。かなりの重労働らしいが、窓は開け放たれているので、この過程で周囲の自然環境からの様々な影響も麦に混ざる。

※4 ラフロイグ蒸留所ではこのミドルカットが通常のタイミングより遅くおこなわれ、最後のほうにカットされる高いフェノール値の蒸留液を取り込んでいるとのこと。

↓ラフロイグのピートボグ。多量の苔が混ざっている

さてその味わいは・・・

冬の焚火で燻された麦と石灰スープ

ドライフラワーの添えられた石づくりの彫刻

あふれだすナッツの甘味と荒波に削られる翡翠の岩

89点

合言葉はNo half measure(中途半端は無し)(ラフロイグを成功に導いたキーマンであり、創業者一族に直接つながりを持つ1908年就任のオーナー・イアン・ハンター氏の口癖)

ラフロイグこそまさに、妥協のない職人精神と好き嫌いのはっきり分かれるこだわりの強さに貫かれた、シブく気高い漢の酒

初心者には違和感を覚える程の、煙たい藁を頬張ったような、波で洗われた岩をなめたような独特の強烈な風味(薬品くさい、とか正露丸のような、とはよく言われる)

だが、奥に隠されている麦の甘み、ナッツのような香ばしい甘味。ウィスキー好きを名乗るのであれば体験しないのはモグリだ。

正規品は度数43%で、750ml 瓶が5000円前後(度数40%で700mlの優しめバージョンも同等に美味しいが、まずは前者から行ってみて欲しい)

ちなみに、この酒はハイボールにしてもめちゃくちゃうまい。

ティーチャーズやホワイトホースで作られるスモーキーなハイボールが好きな方にとっては感動を覚える程だろう

蘭子

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