キルホーマン、ウィスキーの聖地とも呼ばれる・アイラ島(スコットランド本島の西にある小さな島)にある蒸留所のひとつである。
キルホーマン蒸留所が誕生したのは、2005年。ポートシャーロットやポートエレンなど高名な蒸留所の閉鎖が相次いだアイラ島に新蒸留所が誕生したのはじつに124年ぶり。
創業者(アントニー・ウィズ)が目指したのは、かつてアイラ島をはじめスコットランドでは数多く見られたファームディスティラリーの復活。
つまり農場併設の家族経営、すべての原料や工程が自前の、こだわりの貫かれた小規模生産型蒸留所である。
キルホーマンのこのスタイルは、世界的なクラフトウィスキーブームの先駆けともなった。
アイラ島ではすべてのウィスキー蒸留所が海沿いに位置するが、この小さな蒸留所は島西部の小高い丘(常に潮風にさらされてもいる)にたつ。
原料の大麦の大部分は自前の畑や近隣の農家で栽培されたもの。使用されるピート(※1)もすべてアイラ島産、製麦の際には伝統的なフロアモルティング(※2)も蒸留所内で行われている。
アイラ島のウィスキーの一般的な特徴は、
原料の麦芽を乾燥させるために燃やすピートの焦げたような燻製香の強い主張や、微かな潮風の匂い(ヨード香とも言う)。
キルホーマン・マキヤーベイ(キルホーマン蒸溜所から半マイルの距離に位置する、アイラ島で最も美しいといわれるビーチで、有名な観光スポット)は、
ヘビーピート(フェノール値50ppm。これはアードベッグにも匹敵)の大麦麦芽を使用し、バーボン樽、シェリー樽で3年から5年熟成した原酒をヴァッティング(ブレンダーが混ぜ合わせて味を調えること)
※1 植物の遺骸の堆積と泥が混ざって炭化したもの(泥炭)。もちろんアイラ島でとれた天然のものを使う。これは原料に加えるアイラ島の川の水(仕込み水)にも混ざっている。多様な植物の他、アイラ島海岸の海藻や貝殻なども混ざり、それらが味わいに大きな影響を及ぼす
※2 2日間水に浸した大麦を床に広げ、4時間毎に攪拌し、麦の発芽によって発生する熱を均等にする。かなりの重労働らしいが、窓は開け放たれているので、この過程で周囲の自然環境からの様々な影響も麦に混ざる。
さて、その味わいはいかに・・・
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かんかん照りの太陽に焼かれた麦畑に流れ込む
シトラス風味の潮水
バニラとブルーチーズを混ぜた
お好み焼きの青のり
87点
どこかソースお好み焼きやたこ焼きの青のりと、かすかにチーズのような風味もあるユニークなピート香が面白い。
しかし同様にヘヴィピートなアードベッグやラガヴーリンなどの濃厚な陰影とは対照的で、イエローとブルーのラベルカラー(青空と海と太陽と麦畑の色)にぴったりな、爽やかなシトラス系の酸味とバニラを感じ、どこかカラッとフレッシュで、かつギラっとした強い主張を焼き付ける味わいがある。
若い蒸留所の若い原酒を使った、勝気な江戸っ子の若者、という感じ。このカラッとした若々しさが他にない個性だ。
もっとギラギラしたキルホーマンが飲みたいなら、各種カスクストレングスものがオススメ、このマキヤーベイも限定リリースのカスクストレングス版は格別にうまかった。
蘭子